2017-06-02(Fri)

徐々に奇妙な冒険。

夜、会社から帰ろうとしたら嫁からラインが。

「晩ご飯ないからどこかで食べてきてください」

とのこと。

「了解」

と返事をすると、

「へい」

「へい」

「へいよー」

「R」

とよく分からないメッセージがポンポン飛んできた。「R」とあるとおり、これは娘・R(中二)の仕業である。ラッパーかよ。何か用があるのかと思い

「なんだい?」

と聞いてみると

「なんでもない」

というつれない返事。なんだよ。パパ寂しいじゃないか。

で、電車の中で何を食べようかと考えていたところ、おおそうじゃ、ビリヤニを食べよう、ということになった。ビリヤニとはインドや中東、東南アジアなどで食べられているスパイシーな炊き込みご飯で、後を引く美味しさがある。

新大久保には「イスラム横丁」と呼ばれているエスニックなエリアがあって、以前その中の「ナスコフードコート」というお店でビリヤニを食べたことがあり、今日もそこを目指すことにした。

新宿で電車を降りた。そして新大久保まで歩いていくことにする。何故かというと、定期が新宿までしかないため、電車賃をケチっているからである。山手線のひと駅だからそんなに距離はないし、いろいろ賑やかなところなので歩いていても退屈しない。

青梅街道を渡り、歌舞伎町を北上し、健康プラザハイジアを過ぎ、裏手の大久保公園に差し掛かったところで足が止まった。

「放水始め!」

「よし!」

公園内で消防署員たちが消火栓の放水訓練をしていたのだ。署員のキビキビした動きやホースからぶっしゃあああと勢いよく飛び出す水のカッコよさにしばし見惚れていたら

「すいません」

かすかな女性の声が聞こえた。聞こえるか聞こえないかギリギリの大きさの声。

「はい?」

振り返ると横に50代ぐらいのおばさんが立っていた。しかし目を合わせようとしない。なんだこの人。

「呼びました?」

と確認すると2、3秒妙な沈黙を挟んで

「すいません、1時間ぐらいお時間ありますか?」

おばさん、ようやく喋ったと思ったら…。宗教かマルチ商法だろうか。

「なんでしょう?」

逃げる気になりつつも確認してみたら

「私、人妻デリヘルに登録してるんですけど全然指名なくてヒマなんで今から遊びませんか?」

「ええええ!?」

そういえばこの辺りは立ちんぼ(街娼)のメッカなのであった。イスラム横丁を目指してただけにメッカってやかましいわ。

「いやー、ちょっと…」

2、3歩後ずさりして再び新大久保を目指した。最初に声を掛けてきた時のよそよそしさは、あれは相手が私服警官じゃないかどうかを見定めるためだったのではないだろうか。

立ちんぼといえば、ここから更に北上すると百人町というところがあり、ここにも外国人立ちんぼのメッカがある。僕は寂れた盛り場や怪しい色街をうろつくのが大好きなので、せっかくだから…、と、そこを通過してみることにした。

職安通りを越えると百人町界隈。韓国系飲食店やラブホが面する細い道を進んで行くと、すごく背が高くてスタイルが良く、足をスラッと出した赤い服で金髪の女性が立っていた。僕に背を向けていたのだが、足音に気付き

「コンバンハ…」

と振り返った彼女の顔は、厚化粧で真っ白であった。す、鈴木その子。いや、もしかしてオカマさんかも、と内心ビビッて何も言えないまま通り過ぎた。

立ちんぼの人たちは中国系、東南アジア系、南米系等、全て外国人で、それぞれ路上にて適当な間隔を空けて立っていて、次は

「オニイサーン」

ロシア系の女性だろうか。駐車場の縁石に腰をかけている人に声をかけられた。昔はキレイだったんだろうけど、だいぶ生活疲れした感じだ。無視して通り過ぎると

「…シカト?」

と言われてしまった。ごめんね、とだけ返事した。

「コンバンワー」

今度は南米系と思われる3人組。そのうちドラゴンボールのドドリアに似た女性がわざとらしいほど整った胸をバイーンと強調してくる。「ギニュー特戦隊」という言葉が頭に浮かんだ。二重の意味で。

「マッサージ、ドウ?」

今度は作家の岩○志麻子似の中国系と思われる女性が。よく中国系のエステ店があるが、この人は立ちんぼじゃなくてエステ店の客引きなのだろうか?表向きはエステ店だけれども、実はエロいお店、というのはよくある。なので

「どこまでやってくれるの?」

と聞いてみたら

「サイゴマデ」

とのこと。「マッサージ」を「最後まで」というのは意味が繋がらない。つまり、そういうことである。

「いくら?」

「イチマンエン」

なんかそれっぽい相場の額がでてきたので

「お姉さん、お店の人なの?」

と聞いてみたら

「チガウ、ワタシ、タチンボダヨ」

客引きかと思ったらこの人自身が立ちんぼだったのだ。

「イキマショ」

と手を取られそうになったが岩○志麻子と最後までというのはまさに「ぼっけえきょうてえ」であり、

「ごめんね…ホントに…またね…」

邪魔してすまんね、とその場を後にした。

やがて大久保通りに出た。もう立ちんぼエリアは抜けた。もし万が一心惹かれてしまう立ちんぼに会ってしまったらどうしよう、なんて思っていたが、幸か不幸か心身ともにピクリともしなかった。

韓国系のお店が立ち並ぶ大久保通りを西に歩き、新大久保駅と山手線のガード下をくぐり、マツモトキヨシの角を北に曲がるとようやくイスラム横丁に辿り着く。大久保のマツモトキヨシ。略してオオクボキヨシ…って、危!!止!!禁!!。

お目当てのお店に向かうと、ななななんと、シャッターが閉まっているではないか!このお店はラマダン期は休みなのであった。しまった、前もって調べておくべきであった…とテンションは下がるわ腹は減るわ。

他にビリヤニを食べられるお店はないだろうか…としばし近隣をうろつく。大久保通りを更に西に歩き、総武線の大久保駅近辺まで歩いてみた。

大久保 のびた

大久保 しずか
ビリヤニとは全く関係ないがエステ姉妹店「のびた」と「しずか」。さっきの志麻子さんはこの辺のお店の人かと思っていたのだ。

肝心のビリヤニを出す店はなかなか見つからないので「食べログ」で検索してみると、どうやら大久保通りを更に西に行ったところにあるようなので探してみることにした。

駅を離れどんどん暗く寂しくなる。地図が示す近くまで来てもお店の気配などなくて、ホントにお店があるんだろうか、実はまた休みでした、とか実は閉店してました、とかだったりして…と不安になったところで

ガウレレストラン
ようやくお店発見。あっここだ!!と早速飛び込んでみると

「イラッシャイマセ」

小柄なおじさんがカウンターに案内してくれた。さてビリヤニとメニューを見てみると、なんとビリヤニがない!焦って食べログを見返してみると、食べログに書いてある店名とメニューに書いてある店名が違うではないか! 食べログの情報は古くて、既に店が変わっていたのだ。同じインド系料理店だけれども居抜きで違うお店になりました、って感じなのだろうか。住所も同じで建物も看板以外は同じだったので油断してしまった。

間違えました、と謝って店を出ようかと思ったけれども、既におじさんがお水を注いでいてくれていたのでそれも悪い気がし、仕方ないと諦めて一番安いチキンカレー600円を頼んだ。

ガウレレストラン
やがて運ばれてきたのがなかなかブルース感漂う晩ご飯。まあ600円だし。ゴハンは細長いお米。チキンカレーともうひとつ汁物があった。すくって飲んでみると豆のスープ。これはネパール料理の「ダル」である。ゴハンにかけて食べても美味しい。

他のおかずもサグ(青菜)、アル・コ・アチャール(ジャガイモ胡麻あえ)、生野菜、チャトニ(チャツネ)、と貧相ながら揃っているので、これはチキンカレーというよりはネパールの「定食」を意味する「ダルバート」と呼んでいいのではないだろうか。そういえば店頭にネパール国旗があったな。

カレーも他のおかずも美味しいではないか…とすいすい食べていると、視線の端に何かが映った。そーっと振り返ってみると…背後におじさんがじーっと立っていた。

ひいいいい!と声を上げそうになったが

「オカワリ?」

ダルが入った器を持っていた。

「ありがとうございます」

カレーよりダルの方が好みの味かも、と思っていたのでお代わりサービスはとてもありがたい。そうなるとゴハンももうちょっと欲しくなるが。

ゴハンがなくなりそうになった時、再び背後に気配が。振り向くと

「オカワリ?」

おじさん、今度は三合はあるんじゃないかってぐらいのゴハンを載せたお皿を持っていた。

「お願いします。でも少しね」

と言ったのだがあまり言葉が通じなかったのかドカドカ入れられてしまい

「ストップストップ!」

どんだけ食うと思ってるんだ。でもほんの600円でこんなにたっぷり食わせてくれるなんてありがたさを通り越して申し訳なくなってしまった。

「ごちそうさまでした」

なんとか残さず食べ終わり、お会計を済まして店を出た。ビリヤニのつもりがダルバートになってしまったが、これも美味しかったし家族と一緒だとなかなか食べられない(辛いから)ので満足である。

しかし…今日は無意味にいろんな外国の人と会話してしまったことよ。(ほんのひとことふたことだけど)

腹がパンパンで帰り道がキツかった。

ネパール料理だけに、ゴハンがチョモランマ盛り。なんちて。

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2017-05-22(Mon)

一同霊。

「中二病」という言葉がある。思春期にありがちな、ひとりよがりのカッコつけたがりや思い込みの激しさを現す言葉だと思う。

で、うちの娘・Rがいつの間にか中二になっていて、先日それっぽい話を僕に振って来た。それが

「パパ~、あのね、同級生で霊感が強い子がいるの。霊が見えるんだって」

オカルトネタであった。

「中二病かよ」

速攻でケラケラ笑いそうになったが、そんなことをしたらRは二度と喋ってくれない気がしたので

「へえ~、どんな霊が見えるのカナ?金正日とか?」

などど話を合わせてみた。

こっちだって小学生の頃からテレビでは心霊研究家・新倉イワオ氏プロデュースの心霊体験再現ドラマ「あなたの知らない世界」を食い入るように観、マンガでは「恐怖新聞」「うしろの百太郎」でおなじみ、心霊マンガの大家・つのだじろう先生の名作を貪るように読み、小説では「帝都物語」「陰陽師」を、ゲームでは「女神転生」シリーズを楽しんできた魔太郎ばりのガチの中二病オカルトマニアであった。

子供の頃は夢中だったけど、オッサンとなった現在の見解は

「ウソだとは言わないけど、僕には見えないのでなんとも言えない」

このことである。ともあれ、Rの言うことはいちいちカワイイので聞いてみた。それによると友達の霊感が強い子とやらは、たまに学校で霊現象に会うという。どこからか声が聞こえて来たり、廊下を歩く足(だけ)を見たりするらしい。

「えー、うっそーん」

とからかうと

「ホントなの!」

Rは信じて疑わない。また、近所にわりと大きい公園があるのだけれども、

「そこのトイレにも霊がいるんだってよー。そこで自殺した人がいるんだって」

とドヤ顔で語る。その公園で数年前に自殺があったのは事実。その頃まだ小さかった子供達の間に既にそういう伝説が生まれてしまっているのは興味深い。しかし僕が知っている情報と内容が違っていた。

トイレではなくて、その公園にあった立派な松の木で首つり自殺したのである。Rもちっちゃい頃はよくよじ登って遊んでいた木だったのだけれども、そのせいで切り倒されてしまい、子供達共々残念な思いをしたことがある。なので

「パパが聞いたのはトイレじゃなくて松の木だったってことだけども…Rもその話は知ってるだろ?」

と思い出させようとしたら

「でもその友達がトイレって言うんだもん!霊感探知機もトイレが一番強く反応するんだもん!」

Rはそう言って聞かない。ほえー、そうなのか…。

「…って、霊感探知機ってなんだよ!お前の友達キテレツ?」

どんだけ怪しい機械を持ってるんだよ、とツッコミを入れたら

「アプリ」

なんだそうだ。試しに検索したらそれっぽいのがいくつか出て来た。

「はあ、なるほどですねー…」

スマホはなんでもできるんだな…と思ったけれども中二女子相手にそれ以上のツッコミは不毛である。それに、松の木じゃなくてトイレだ!と言い張られると、確かに僕も実際に見たわけでないので松の木説も揺らいでしまう。

「そうかー。あそこのトイレがなあ…」

実はそこの公園のトイレ、駅からウチに帰る途中にあるので、酔っぱらって帰る時などは時々利用したりするのである。薄暗いし、決してキレイではないのだが、そんなことは大して気にもかけていなかったのだけれども、あそこが自殺現場だと言い張られてしまうとあっさり怖くなってしまい、

「ひいいいー!結構あそこのトイレ使ってたんだけど!」

かなりびびってしまったではないか。今のR以上にかつてオカルト大好きっ子であったためか、大人になっても未だに吹っ切れないようである。

とにかく今後もうあそこ行けない。冷や汗もんである。

霊感はないけど冷汗三斗。なんちて。

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2017-04-22(Sat)

中華ないぱねま!

先日、洗濯機が壊れてしまい嫁が嘆いていた。

今なにかと話題のT芝製だったので、これだからT芝は!とDISろうとしたのだけれども、買った当時の保証書をみたら2002年の日付であり、15年も稼働し続けてくれたのだ。すごいぞT芝!

嫁が新しい洗濯機をコジマデンキにて選んできて、日曜の夕方配達されることになっていた。配達の人が設置してくれて古いのも回収してくれて、とその手間はいらないのだが、ウチは狭い上にモノがみっちり詰まっていて現状では洗濯機が通れない。

なのでとにかく隣の部屋にモノを投げ込んで導線を確保したり洗濯機周りに組んでいたラックを外したりでなかなか大変であった。

洗濯機は午後6時ごろ運ばれて来、無事設置されて試運転もOK、モノやラックも元に戻してお疲れさん。気付いたら8時過ぎなので

「じゃあどっか近くの店でゴハン食べるか」

ということで近所の中華料理店へ。

「何が食べたい?」

嫁や娘・R(中2)はエビチリ!エビマヨ!麻婆豆腐!小籠包!五目チャーハン!など声を上げるが息子・タク(小5)は

「まぜそば!」

「つけ麺屋じゃあるまいしそんなもんあるわけないじゃん」

「あるよ!」

メニューを見たらあったー!しかも油そばとかまである。まじか。

エビチリや麻婆豆腐は辛さを調節してくれるというので、子供達のために辛さ控えめにオーダー。

「それでも辛いよう~」

タクにはそれでも辛かったようで、水をがぶ飲みしながら食べていた。一方Rは

「おいしいよ~」

と平気であり、いつもふたりは背が同じで双子のようだけれどもそこだけは姉の風格である。そして小龍包が来ると

「小龍包はね、こうやって食べるんだよ!レンゲに乗せて、中を開いて、あふれてきたスープを先に飲むの!」

食べ方を説明する。すべてテレビの受け売りなのがカワイイ。

料理はどれもボリュームがあって、得にタクが頼んだまぜそばがラーメン二郎ばりに麺の量がものすごく、腹いっぱいになってしまった。中華食べに来たのに太麺が喉から出て来そう…。

唐揚げも食べたかったんだよなあ。

洗濯機ーフライドチキン。なんちて。

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2017-03-28(Tue)

買い物しようと街まで。

「パパ、西友に行こう」

日曜日の昼下がり、娘・R(中一)に誘われた。

「何しに?」

「卒業お祝い!」

お世話になった部活の先輩数人にお祝いの品を渡したいんだそうだ。文房具がいいという。なんか以前もこんなことがあったような。確か部活の先輩からもらった修学旅行のお土産のお返しを探しに新宿を歩き回り、えらい時間がかかった。またその再来か。

しかし新宿ならまだしも西友ならRでもチャリですぐである。中一なのに未だに買い物に親がついて行くとか過保護のような。

「ひとりで行けないんかい」

一応言ってみると

「一緒に行こう」

という。まあいいけどさ。わーいRとデートだ。

「財布持ったか」

「うん」

いくら大甘な僕でもお金を出してやるほどスウィートではない。そんな確認をしてから西友にチャリで来た。文房具売り場でウロウロと物色するRの後を付いていたが例によってRの買い物は長い。

そのうち僕は隣のおもちゃ売り場を見ていた。ちびっ子向けのゲーム機に親子連れが群がっている。1回100円でゲームの中のポケモンをゲットするゲームなのだ。ゲットするとポケモンのデータが入ったメダルみたいなものがもらえる。昔、タク(小5)がこれにはまっててよく付きあわされたものである。

懐かしい思いで眺めていたら、いつの間にかRが横にいて僕の方を見ていた。

「Rも覚えてるか?これ。タクがはまったやつ」

「うん」

「で、買うもの決まったの?」

「うん」

「じゃあレジ行ってこい」

「パパも来て!」

「なんでだよーひとりで行けよー中学生ー」

「いいから来て!」

何故かしつこいので一緒にレジの列に並んだ。Rは4つほどのこまごました文房具を選んでいた。

「パパー、これ全部でいくら?」

「計算しろよ」

「してよ」

「足し算ぐらいしろよー中学生ー」

「してよ!」

まったくもう! スマホで計算してやる。

「980円だね」

と教えてやると

「あーよかった!千円いかなかった!」

なんかめちゃくちゃ喜んだ。

「なんでそんなに嬉しいんだ」

と聞いてみたら

「だっておこづかい千円しかなかったから。足りなかった時のためにパパに付いてきてもらったの」

ガーン。ちゃっかりしてやがる。はいはいどうせカードもパスワードも不要、しかも付いてきてくれる便利なATMですよ。

完全に舐められているな…。もうちょっと厳しくした方がいいのだろうか。

獅子は我が子を千尋の谷に落とすという。

ウチは我が子を西友のレジに並ばすぐらいはした方がいいかな。

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2017-03-12(Sun)

わたし、松葉。いつまでも松葉。

僕と息子・タク(小5)でランニングしているコースは、ゴールが「トキワ荘跡地」であった。

手塚治虫・藤子不二雄・石ノ森正太郎・赤塚不二夫といった昭和の代表的な漫画家達が住んでいたマンガの聖地・トキワ荘。藤子不二雄A先生の「まんが道」を読むとその頃の様子をうかがうことができる。現在、トキワ荘は現存しないが、

松葉
「まんが道」で藤子先生たちがよくラーメンをうまそうに食べる食堂「松葉」は今でも営業している。

松葉
お店の入口にもそのマンガが誇らしげに貼られていて、ここが間違いなくその松葉だということが分かる。

このマンガのページは、トキワ荘に引っ越してきた藤子先生達へ、引っ越し祝いとして先輩漫画家・寺田ヒロオ先生(テラさん)が松葉に出前を取ってくれたシーンである。

僕も子供の頃このマンガを読んでいたが、松葉のラーメンがとにかく美味しそうであり、いつか実際に食べてマンガの通り

「ンマーイ!」

と叫びたい、そう思ったものである。

トキワ荘を目指してランニングしていたら必ずこの店の前を通るわけで、目ざとくこれを見たタクが

「パパー、今度ここでラーメン食べてみたい」

と言うのであった。

「いいけど、たぶんここは昔ながらの食堂だから、ラーメン食べるんだったら○○とか××(好きなラーメン屋)の方がおいしいぞ」

と釘を刺すと

「わかってるよ!そういうことじゃなくて、ボクはマンガみたいにこのラーメンを食べたいの!」

タクは「まんが道」は読んだことはないけれども、小学校の図書室から手塚治虫や藤子不二雄、石ノ森章太郎といったトキワ荘ゆかりの漫画家達のマンガ伝記をよく借りて読んでいた。だからタクなりの聖地巡礼なのだろう。小5ながらもののあはれを分かっている。じゃあ行くべか、ということになった。

行けるのは土曜の昼間。嫁は仕事なので行けないが、あとは娘・R(中1)が行くかどうか。

「タクの希望でこのお店にラーメン食べに行こうと思うんだけど君も行く?」

とぐぐった店の画像を見せてやると案の定

「えー」

という反応だった。お年頃のRは、失礼ながらこのお店のような古ぼけたところを嫌う。そして

「ラーメンならこういうとこより○○とか××とかのほうがおいしいでしょ」

聞いたことがあるようなことを言った。だがひとり留守番するのが嫌だったのか渋々付いてきた。

そんなわけでお店に到着。

松葉
お店の入口には先程の画像の他にもマンガのページが貼ってあった。藤子A先生、どうやらラーメンだけでなく可愛い女の子店員にも興味があったようである。

松葉
こんなシーンも。おごってくれたのは寺田ヒロオ先生で、ベレー帽でスクーターで帰るのはつのだじろう先生である。タクはこのシーンを見て、

松葉
「シャバシャバって何?ラーメン食べるのにそんな音する?おかしいよ!」

と細かいツッコミを入れたが

「まあまあ、何十年も昔のマンガだから…」

このままだといつまで経っても店の中に入れないので適当に誤魔化して暖簾をくぐった。

先客はビールをチビチビ飲っている初老の男性がひとり。厨房の中からおかみさんが出て来たので注文をする。タクはラーメン、Rはワンタンメンを食べたい、と。じゃあ僕はゴハンものにしようと思い、焼肉定食にした。あとギョーザ。

調理はおかみさんワンオペなので出来上がるまで時間がかかった。

松葉
待っている間店内を見渡してみるとさすがマンガの聖地、サインがたくさん貼ってある。おお、「まいっちんぐマチコ先生」に、「鈴木先生」に、「ブラックエンジェルス」。

松葉
おっ。ジャストミートゆでたまご!

松葉
実際のトキワ荘住人であった藤子不二雄A先生・水野英子先生・よこたとくお先生、ラーメン大好き小池さんのモデルとなった鈴木伸一さん、トキワ荘出身漫画家を育てた編集者・丸山昭さんのサインは額縁に入っていて特に大事にされていた。

サインを見ながらRとタクにもそんな説明をしていたが、さすがにだんだんと空腹の限界が来たRとタク。

「お待たせしましたー」

松葉
しかし最初に運ばれてきたのは僕の焼肉定食だけであった。それはそれとしてこれは趣のあるおいしそうな定食である。しばし見惚れていると飢えた狼状態のRとタクの視線が痛かった。

「食べていいよ」

ふたりに分けてやると

「おいしい!」

ガツガツと食べ始めた。

松葉
さらに10分ぐらいしてからようやくラーメンとワンタンメン、ギョーザが到着。子供達が食べる前に写真を撮ろうと思ったけれど、未だ飢えた狼状態だったので恐ろしくて出来ず。

すぐさま麺をすすり始めて

「おいしい!」

いや、R、違うぞ。

「ンマーイ!」

松葉
タク。それをそれを聞きたかった。そして僕もひとすすり…。

「ンマーイ!」

自分でも言ってみたかった。さすがにイマドキのラーメンと比べるのは酷だが、タクの言うとおりこの場でこのラーメンの味わうことがよいのだ。程なくして残さず食べきった。

「もしかしたら、マンガに出てた女の子があのおかみさんかもよ?」

「まじか?」

「えー?まさかー?」

などとRとタクとヒソヒソと話したりして。「まんが道」ゆかりの雰囲気が気に入ったので、また来て

「ンマーイ」

と言いたいものである。おかみさんが厨房から出て来たところで

「ごちそうさまです」

とお会計を済ませた。出した千円札の枚数は、

ニマーイ。

なんちて。

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